楽器屋としての役割は、何であろうか常に自問自答し考えています。
当店は、古い弦楽器が好きです。特に、イタリアンの匂い(音色)がする弦楽器が好きです。但し、イタリアンのオールド楽器で本物は高額過ぎて現実感がないので、少し考え方を変える必要があると思います。オールドの名器といわれる楽器を、今までに約300本近く手にして、試奏する機会がありました。確かに、なんともいえない音色と、芯の通った透きとおる音が簡単にでて、言葉では言い表せない素晴らしさをいつも感じます。 しかし、一方いつもこんなに音が弱くて(柔らかくて)いいのかなとも感じます。それに加えて、値段も目が飛び出るほど高く、当店で販売する目的ではとても仕入れできるものではないと考えています。
オールドの名器は、残念ながら一般的な価格帯では手の届かない憧れの世界です。そこで当店としては、一般的なお値段で、オールド、モダンの音色に似た、弾いていて気分の良いもの(好きな音色の出せるもの)を提供できないかと考えています。 その際に、基本的にコンテンポラリーは他社さんにお任せして買い付けません。理由は、日本にもたくさん輸入販売されていますし、どこでも手に入ります。また老舗オークション以外で、買い付けをしますと業者であっても案外ラベルに目がくらんで悪い物をつかむ可能性が高いからです。その他の理由では、物は綺麗なので見栄えがいいのですが、古いものと比べると個人的に魅力を感じないという点が一番の原因ではありますが。
一般的に手に入るお値段とは、どの程度かといいますとバイオリンは100万~300万円ぐらいだと思っています。チェロは、200万~500万円迄です。ビオラは、その中間位です。そして最低で50年前、出来れば100から200年前に作られた楽器がいいと思っています。
バイオリンを100万円(チェロ300万円)と基準範囲を示しましたがこれらの金額は、一般趣味の道具としてはとてつもなく高額な品と理解しております。しかし、当店のスタンスでオークションから仕入れて修理を施し保証をつけて自信を持って販売するとなるとこのあたりが限界です。この価格より下になりますとやはり何かしら問題があるものが多く、何か良い点が気に入ったのであれば、他の条件は目をつぶって購入してくださいとお願いするものです。
もちろん楽器として世の中に出してはいけない大幅なサイズ違いや致命的な欠陥があるものは、価格に関係なく取り扱いは避けています。お客様から要望の高いであろうこういった楽器を揃えるために気を配る点は、やはりサイズの正確性、素材の良し悪しとラベルに惑わされない事です。有名なラベルは、やはり古今東西いろんなコピーが存在していて、そのレベルごとにやはり割高です。また、見た目の綺麗さよりは、少人数又個人で手作りした跡があるかどうかです。手作りのものは、やはり独特の個性が宿っておりコピーでもその人の心が入っています。又、素材がよければ、適正な修理を施すと古さは失われずに、良い楽器に再生出来ます。
買い付ける時はイタリア製またはそれに近い匂いのする楽器をなるべく選ぶようにしています。それは、材質の要素が大きいと推測しますが音色が独特で美しい。またどのレベルでも弦楽器においてはイタリアンの価値は高く、再販や買取りの際に条件が一番いいと思えるからです。 由緒正しく、音が良くバランスよく鳴り、修理の跡もすくない、古いものはやはり高いのです。そこで由緒と多少の修理跡に目をつぶってもらえれば上記の価格帯で、オールドの名器と大きな差の無いものが手に入ると思っています。高額オールド自体も、実はかなりの修理を施してあって、それに莫大な金額と時間をかけているのです。その為、見た目は素人目には傷がないように見せることが可能になります。高い値段で取引されるので高額な修理代金が吸収出来るからです。
チェロにおいてはもはや古いものは、どの国の産地の物も大変手に入りにくいものです。これは、手作りにおいて多く労力の掛かるチェロは、製作者が手がける数が圧倒的に少なかったことが大きな原因です。イタリアンチェロは好きですが、道具としては予算的に常識の範囲を超えていると思っています。チェリストの方へは、予算を常識的な範囲で考えますと製作地の特定は、目をつぶってサイズの正確性と鳴りの良くなりそうなものを探すように心がけています。特にねらい目はイギリスの古いもので、手頃でイタリアントーンをするものも存在します。ドイツやフレンチのイタリアンのコピーの中にもよい物があり、バランスを考えると、この二つの中で探す事を心がけています。こういったものを運良く買い付けが出来れば、後に修理を施して魂を注入し調整を行います。
古い弦楽器で、オークションで買い付けたものは殆どが調整や修理が必要です。保証つきの商品として販売する以上それを省くことは出来ません。コンテンポラリーを扱うお店が多いのは、その調整や修理をしないで買ったものに経費を乗せて販売するだけで手間や時間が掛からないのです。また、本人製作の証明書?がついているものもありお店が責任を負わなくてすむのです。古いものは、多くの方のあこがれる楽器ですが、販売する側からすると手間と時間が掛かり出来れば扱いたくないのかもしれません。 すべての商品を揃えるのは困難でが、自分の得意な分野の物を揃えることは小さなお店でもある程度可能です。我々は、古い楽器が好きです。当店では上記のような商品を、揃えたいと思っています。
弓についても、具体的な事は、別の文章で提示致しますが、基本的なスタンスは一緒です。自分にとって、高額ではなくとも気に入った音色の出せる楽器は必ず存在します。後は、当店で条件を絞り込んで選んだ楽器が道具として好きな音色がするかどうかは個人の感性なので、弊社と気の合った方に購入して頂けることを願います。当たり前ですが、道具として良い商品をお客様の換わりに見つけてくるのが役割だと思っています。