弦楽器を構成しているのは、木材です。その為、その素材自体で音色に、差が出てしまいます。(特に、表板が影響を受けます。)音色の良し悪しは嗜好の部分で定義がないのでここでは省きますが、弦楽器を選ぶ際に、本体を構成する木材(産地)を知ることで、自分に好みの良品を掴む確率を高める事が出来ます。弦楽器を選ぶ際に年代とも複雑に絡んでいますが、年代別の特徴については軽く触れる程度で、また別枠のなかで考え方を示したいと思います。
材料(産地)の点から、区別をあえてつけてみるとイタリアン、フレンチ、ジャーマン系(チェコハンガリーを含む)、イギリス、その他で大まかに区別ができると考えています。
初めに、年代は無視して産地別で特徴をまとめてみます。まずは、イタリアですが皆さんもご存知のとおり「イタリアントーン」の音という表現がありますが、これは、イタリアの地に近いところから伐採された木を表板に使用されているところからきていると言えます。特にオールド(250~200年前)などが作られた時代は、ヴァイオリンを製作する為だけに木材を世界中から集め吟味したとは考えにくく、たまたまイタリア近郊のエリアで当時手に入れる事の出来たものが、弦楽器の製作に使用されたと考える方が自然だと思います。(表板の松は、イタリア北部の山塊、裏板の楓は、ベネチアの対岸ボスニア近郊と言われています。) 世界的に評価の得ている、逸品と言われるのは上記の産地の材料を使用したとされるイタリア物がほとんどです。人間の作る木工品ですからその製作技術内容がものすごく差があったというよりは、使用した木材がオールドの音色の質に大きく影響していると考えていいと考えます。名品のみでなく、古いイタリア物であればボディーについては同じ系統の産地の材料を使用している確率も高く、ある程度のレベルはクリアーしている場合が多いと言えます。その為、現在も取引される中で、どんなものでもイタリアンと特定できるだけで評価が高いのです。但し、作り(形)はそれぞれ独特で、特に有名なのはナポリで製作された楽器は作風や技術はいまいちだが素晴らしい音色のものが多いです。当然、ヴァイオリンの発祥地ともいえるクレモナ近辺は、作りも材料も良質なことが多くそのエリアから離れれば離れるほど形やサイズに自由度がある様に思います。
フレンチについては、とにかく木材がきれいです。特に裏板の木目については目を見張るものがあります。高額商品でなければ裏板のきれいなものは、フレンチではと思ったほうが良いくらいです。ただし、フレンチは独自の考え方で、独自のデザインを取り入れて弦楽器の製作がされた為、イタリアとは完全に一線を画していると感じます。音はやはり繊細でやや弱く感じるものが多く、軽やかに透き通った感じの音色がでると感じております。私見ですが、音よりは形や審美眼にこだわっていたように思えます。一世代遅れて弦楽器の製作が盛んになった為、いろいろ試行錯誤を各自繰り返し演奏の必要性(観客の増大に伴う音量の大きな物等)から比較的本体を大きめのサイズを製作して音量を出そうとした狙いがあるように感じています。
ジャーマン系ですが、これはある意味大量生産のイメージが強く残っていて、材料も量産型の品質のものが使用されているという考えが一般的ですが、一部はその通りだと思います。またボディーの隆起も大きくスタイナーモデルの影響が出ていているものが多いのが特徴です。しかし必ず例外もあり、中には小さな工房で丹念に製作し、材料も吟味されたものが存在します。特にイタリアに面している山脈反対側の標高が同等の木材を使用したものは、イタリアントーンに近いと認知されています。ただし、古い弦楽器(200年~100年前頃)の大半のジャーマン系といわれている楽器であるならその中から銘品を見言い出すのはなかなか難しいことだと思います。ジャーマン系は、比較的安く手に入りますので、予算に無理なく購入されたい方は、楽器屋さんのアドバイスを良く聞いて納得されれば選択肢に入れてもいいと思います。実際オークションのランクでも真作と判定された楽器でも価格的には上記2産地比べると安価であるのは真実です。
イギリスですが、基本的にヴァイオリンに適する木材の産地ではない以上、昔も今もどこからか輸入したことが予想されます。島国ですので船での輸送が必須になり、想像の域からでませんが、多くはイタリアから運ばれたのではないか?と考えられています。200年前後昔のイギリスの国力から考慮すれば、世界のどこからでも良品を集めるのは簡単なことであったと想像がつきます。その為、材料において当時すでに評判の高かったイタリア産を使用したのでは?と思われる楽器が存在し、古い楽器の中に案外いい音がするものがあるという印象があります。音色の感じも全体的にフレンチやドイツと比べてイタリアに似ているように思います。ただし、全般にサイズが小さく、又有名でなかった分、変に贋作も多くないのでお店で『イギリスの弦楽器です。』とうたっているものは信用度が高いと思います。その他の地域の楽器に関しては、木材の選別はやはり経験と環境が大切だと思いますので、良質の材料を使用しているとは想像しにくいです。その意味で、やはりイタリアに比べて人気がないのは、しかたのないことだと思います。
それでは年代の判定ですがどうやってラベルに惑わされる事なく判定するかは、以外に単純です。豆電球でボディーの中をエフ字孔(本体のF字の穴)から覗いて本当に古いものと比べればある程度の経験を積めば解ります。(その為には、古い物も見たことがないと解りませんね。)やはり、木材の古さは人工的には作れないからです。木材の質ですが、これはなかなか難しいところです。これは残念ながら数をみて経験を積んでもらうほかありません。楽器屋でも外見だけでは難しく見間違えることがあるようです。一方で、修理のためにオープンをすれば、年代の特定はあまり難しくないことです。裏板の枚数について、1枚ものが良いという考え方がありますが、当然貴重なのでその価値はあると思いますが、音色には正直関係するまで差があるとは思いません。木目も、色々存在し綺麗で美しいに越したことはないですが、やはりいい材料のものは昔も今もその分高かったりします。逆に材料の木目などを気にしなければ安くていい音のするものが手に入ったりします。目の幅は、ヴァイオリンは細すぎず太すぎずボディーに対して適度に思える目約1~2mm、チェロは、すこし木目の粗い楽器が音色に関していい音がする確率が上がるという傾向があるようで約2~4mmあたりが目安です。ビオラはサイズもばらばらなので傾向まではつかんでいませんが全ての事でヴァイオリンとチェロとの中間ととらえています。
楽器の購入にあたっては、ある程度産地にこだわることをお勧めします。音色にもなんとなくですが国の個性がでていて、それはそれで好き嫌いが分かれると思います。産地が近いものは音色に関しても、同じ年代に作られた弦楽器の音は、かなり近い音になる場合が多いようです。