お店の考え方

創業者の思い(1933年~2014年)

20代から数えて70過ぎまで、半世紀あまりアマチュアの立場でどうやったら美しい音色が出せるかを試し訓練し、また良い弦楽器とはなんであるかを勉強、探求してきました。

若い時代は、楽器は日本の弦楽器製作で創世記の名人宮本金八さん製作の楽器を使用して満足していました。
60才を間近にひかえたころ、楽しめる時間の期限がボンヤリと見えてきて、贅沢ではあるが少しお金を出して他にヨーロッパ産の名作もしくはそれに近い楽器で素晴らしい音の出る楽器を手に入れよう、と東京を中心に楽器屋さん廻りを始めました。高額なものを含めて随分と試奏を重ねました。結果は、率直に高いわりに良くない音(楽器)だと私は感じました。

まず、1990年前後当時はバブル景気の影響もあり、楽器屋さんの敷居が高く予算を言わないと楽器さえみせてくれませんでした。また値段も人を見て決めるようなところもあり、販売システムも、明確だとは感じられませんでした。つまり楽器屋さんには不満をたくさんかかえた一人の消費者でした。
この業界の事を勉強し理解が深まると、楽器屋さんは問屋さんから仕入れ、問屋さんは現地のブローカーや、商社の人などから仕入れることが多く流通経路が随分と複雑で長い物だという事がわかりました。

当時、経済のグローバル化も進んで古いものから新作までの楽器を各地の工房(イタリア・クレモナ等)から直接買う方法もありましたが、大多数はロンドンのオークションで落札された楽器が全世界の楽器商の手に渡り出回っていました。いずれにせよ何段階かの流通段階を通って商売が成り立つ状況でした。
そこで、その当時まだ珍しかったですが、皆さんが一度は考える直接オークションでの買い付けをしてみようと思い立ちました。初めてのときは、経験もなく内心は不安でしたが、一つだけ通常とは違う事をしてみたのです。音色の好みは自分で理解できていたので1回目で目をつぶって勢い良く古い楽器を10数本を買い付けました。根拠はありませんでしたが、その方が良い楽器が手に入るのではという自分の勘がそうさせました。

結果は、当然ほとんどが100年以上前の古い楽器たちで弾ける状態の物もあれば修理をしなければ全く弾けないものもありました。信頼を置ける職人にお金と時間に縛りをつけないで修理を依頼しました。結果としては自分の想像以上の物が想像よりも安い価格で手に入りました。私は、カルチャーショックを受けたのです。私は確信いたしました。音色の良い古い楽器が適正に公平な方法で手に入る、手段を見つけたのです。
また、同時に老舗オークションが世界で唯一公平に楽器の格付け出来る機関だと知りました。オークションは、世界の買い手がその楽器の価値を公平に取引し価格を決める仕組みだからです。

その後随分と失敗と成功を繰り返し、いろいろ学びながら、300本を超える楽器、弓数百、小物などを約5年間で買い付けをしました。それだけの財力を投じれば世界で通用する名品が十数本手に入ったかもしれません。しかし、私は高額商品や名ばかりのブランド名器等にはあまり興味が湧かなく、むしろ弾いて楽しく手頃な価格で購入できる物に、心を惹かれました。
手に入れたものを見て、考えて、修理して、場合によってはわざとほったらかししたりして試行錯誤を続けています。それは自分が感じた矛盾への挑戦でもあります。

私は、車を買うぐらいの価格でいいものを提供できないだろうか?と常に思っています。それは、自分が経験したように、購入する側の予算組みに限界があると感じたからです。
たくさんお金を積めばいい音が出て誰にも文句の言われようのない名器が手に入る可能性は高いでしょう。しかし、楽器は音楽を楽しむ道具であると思います。お金を積まないと楽しめないものではないはずです。その考え方に共感してくれる方が、演奏者の中に必ずいるはずと思っています。その方に、私が選んだ物が気に入ってもらえれば幸せだなと思っています。
それが、私が楽器屋を始めた原点です。